まとめにかえて

新しいフォーマットを模索しながら、さてここの締め括りに何を書こうかと思ったときにやはり思い浮かんだのは音楽のことで。
これまでここで書いてきたことの半分以上はCDの紹介だったかと思います。
はてなダイアリー最後の日に、このページを始めた大学生時代以前から聴いてきた最愛のアルバムを記念碑的に遺し、私自身の区切りと致しましょう。




『Elixir』Fourplay
私はこの3rdアルバムがFourplayの最高傑作だと思っていて、音源を所有(なんて言葉はいつまで残るでしょうね)する全てのアルバムの中で一番長く愛聴していることは間違いなく、再生回数でも浜崎あゆみの『I am...』や、大野愛果の『Shadows of Dreams』辺りと肩を並べるだろうと思います。
そんな愛着深い1枚なので、これまで何かしら触れているつもりでいたところ、ここでFourplayからきちんと取り上げていたのは、冬のコンセプトアルバム『SNOWBOUND』(これも名盤ですねぇ、未だに冬になると引っ張り出しています)と、2005年当時の最新作『JOURNEY』だったのは我ながら意外というか、美味しいものは最後に取っておく癖は相変わらずというか(笑)
ごく簡単にアルバムの概要に触れておくと、第1期メンバーのBob James(Keyboards),Lee Ritenour(Guitars),Harvey Mason(Drums),Nathan East(Bass)で作った3枚目にして最後のオリジナルアルバムで、手元にあるのはBonus Trackを含む12曲入の日本版です。
音楽に入り浸っていた高校生の頃、BOSEのAMS=1Ⅱで聴いて衝撃を受けたのをよく覚えていて、所謂インストゥルメンタルの音楽は、当時S.E.N.S.を少し聴いていた程度で、ジャズにはほとんど触れたことのなかった私でも、4人のプレイヤーが奏でるグルーブの豊かさや技術の卓越性、そしてオーディオを齧った者として録音状態の素晴らしさに圧倒されたのですね。
浜大津TSUTAYAでこれを手に取ったおかげで、私の音楽経験、もっと言えば人生経験が豊かになったと、年を重ねるごとに実感しています。


表題曲『Elixir』でBob Jamesの囁くような旋律が聴こえ始めた後、静かにそして確かに歩調を合わせる各人の静謐なフレーズにぞくっとしたなら、私のように聴き続けることになるかもしれません。
タイトルにもなっている妙薬「Elixir」(Final Fantasyに「エリクサー」という万能アイテムがありましたね、ここでは「エリクシール」と発音します。)が、序曲ではあくまで辛口なスパイスとして効いていて、奥底にある強さは見え隠れしながらも、Fourplayらしい優しさやウィットは陰を顰めており、結成時からベテラン揃いのグループとはいえ、これを冒頭に持ってくるのは大胆な、グループとしての実績を積み上げたから出来た選曲だろうと思います。
とても清涼な雰囲気が聴き手にも緊張感と、2曲目以降への期待感を与えてくれます。


続く『Dream Come True』は一転して、軽やかなタッチの鍵盤から始まり、Fourplayの本懐とも言うべき、シンプルかつ強い芯の通った旋律が展開します。
転がるようなBob JamesのピアノとジェントルなLee Ritenourのギターが奏でるユニゾンは、2期以降のギタリストには無い、華やかでありながら抑揚が効いたもので、初期メンバーならではの醍醐味に魅了され続けて、15年以上聴き続けてきました。
中盤にBob Jamesが爪弾くソロパートは、Fourplayで一番美しいと、今でも感じます。


3曲目『Play Lady Play』では、跳ねるような流れの中で自由に動き回るギターと、それを支えるリズム隊の重みが印象的で、後半にかけて各パートが同じ旋律に熱を加えながら進んでいく様は、何度聴いても惚れ惚れするポイントでもあります。
改めて聴くと、アルバムサイズにコンパクトながら、各パートのソロフレーズも熱いですね。
冒頭からここまでの3曲、色合いはそれぞれ異なるにも関わらず、とても連続性を感じる流れで、曲順もとても練られていると感じます。


4曲目はPhil Collinsをゲストヴォーカルに迎えた『Why Can't Wait Till Morning』。
ハスキーかつ温かみのある声と、メンバー4人の優しい音は、都会の夜が似合うと思っていて、私は免許を持った学生時分から、これをカセットテープにダビングし(K11マーチのオーディオはテープだけだったなぁ)、御池通などで気持ち良く聴いていたものです。
歌い手は気持ち良いだろうなぁと思うと同時に、ヴォーカル曲でもしっかりと聴かせるアコースティックな演奏に感歎します。
つい最近も同じシチュエーションで流しましたが、ほんの少しはこのアダルトな世界観に近づいたでしょうか(笑)


5曲目『Magic Carpet Ride』は、初期メンバーが1st,2ndと積み重ねてきた音が結実したような作りで、シンプルなようでテクニカルなパートを駆け上がっていく疾走感は、彼ら以外に作れないと思います。
技術的には2期以降のメンバーや、何なら全く違う人間によるカバーも可能でしょうが、Bob Jamesのリーダー性とトリッキーさ、Lee Ritenourのジェントルさ、Nathan Eastのスピード感、そしてHarvey Masonの緩急について、メンバー各人がそれぞれ対等に敬意をはらっていたときの絶妙なバランスは、二度と再演できるものではないですね。
フュージョンってイージーリスニングとも言えるとっつきやすさと背中合わせに、冗長さや退屈さを孕んでいると思いますが、この曲のラストで繰り返される主題は、とてもスリリングかつドラマチックです。


6曲目は、一転しスローテンポで穏やかな曲『Whisper In My Ear』。
退屈するような隙がないアルバムの中で、この曲は敢えて眠くなると表現しても差し支えないほどに心地良い、それこそスムースジャズなんて言葉がしっくりくる曲ですが、よく聴いてみると、運指はピアノもギターもベースも、そしてドラムスもとても高度なバランスで流れを作っています。
彼らのライブへ行くと、こういうバラードのスケール感がとても大きく感じることがありますが、このアルバムはほとんどライブテイクが残されていないのが悔やまれます。


7曲目の『Fannie Mae』はアルバムの折り返しに相応しく、彼らのチャレンジングな音作りが愉しめる1曲。
Fender Rhodesというのですかね、鍵盤の軽やかな音も、ピアノの響きも使いこなすBob Jamesの疾走感、そして余裕を持ってそれに歩調を合わせるLee Ritenourのギターもさることながら、リズム隊の確かさには舌を巻きます。
クレジットを見るとHarvey Masonの曲なのですね、さもありなん。


8曲目は『The Closer I Get To You』。
アルバムでは2曲目のヴォーカル曲、Patti AustinとPeabo Brysonという男女のヴォーカルが、Fourplayをバックに従えて甘い旋律をとてもドラマチックに歌い上げます。
そのまま映画にでも使えそうですね。


濃厚な甘味をクールダウンするかと思いきや、熱を秘めているのが、9曲目『East 2 West』。
一聴すると地味なイントロから、徐々にヒートアップする旋律、そしてNathan East得意のスキャットが入ってくるのですが、改めて聴くとFourplayの録音の中でもなかなかに熱く歌い上げたテイクですね。
正面から受けてたつBob Jamesもまだまだ若さがあります。


10曲目『Licorice』は、初めて聴いて以来私自身一番のお気に入りで、こんな曲に10代で巡り合えたのは運がよかったとしか言えないと思っています。
こんなにシンプルな旋律をどうしてたった4人でこんなにドラマチックに演奏できるのか、未だに不思議です。
ここまで書いてきて放棄するようですが、いやこの曲ばかりは、もう聴いていただくしか、説明のしようがない(笑)


11曲目『In My Corner』は本編(?)最後ですね。
このアコースティックギターLee Ritenourでしか弾けない音色と余白があって、周りのパートもそれに感化されるように至って緩やかに流れながら、コーラスもとてもしっとりと聴かせてくれます。
題にもなっているフレーズは中程で一度、後半で一度出てきますので、そのままヴォーカルグループにだって成れそうな美しさを堪能ください。


日本版だけに収録された『Any Time Of Day』が12曲目。
1曲多いのは前作『Between The Sheets』からの嬉しい流れで、日本好きのBob Jamesのサービス精神からか、Bonus Trackという言葉から想像されるよりもずっとたっぷりとしたボリュームです。
中盤のエキゾチックな響きはもしかすると東洋的なモティーフもあるのかも、いずれにせよちょっと難解に行き過ぎる一歩手前で、主旋律に戻ってくるドラマは、ここまで聴いてきたファンを唸らせるには十分だろうと思います。


フェードアウトするBonus Trackも含め、もっとこのメンバーの演奏を聴いてみたいと思わせる、本当に素晴らしいバランスの12曲70分強のアルバムです。
私が聴き始めたゼロ年代には、1995年のこのアルバムを最後にLee Ritenourが脱退して、2期目のLarry Carltonにギタリストが交代していました。
全盛期を過ぎていたLarry Carlton、そして3期目を受けて文字通り走り切ったChuck Roebにももちろん優れたカラーがあり、光る曲もたくさんあって、それぞれのライブに足を運んでとても素晴らしいテイクにも出会いました。
しかし、やはり1期目のメンバーが曲を積み上げ続けていたらどうなっていただろうか、という想像をしたくなるのもまた事実で、この傑作の先を聴いてみたかったなぁ、と今でも思ったりしています。




Fourplayの活動休止も然り、ダイアリーの終了も然り、そして元号が変わることにも象徴されるように、今まで言葉の上では知っていた有為転変ということが、まさに身を持って知らされるときが来ています。
これまでとは違うタームが来たときに残っていくものは何なのか、そしてそこで生きるとはどういうことなのか、自問自答だけでは足りないはずで、結局は自分で選び取るということなのだろうと
今更見返すことのないダイアリーには、人が選ばないものばかりが並んでいて、そこを通った私にしか知られないことがあるのなら、あとはそれをどう活かすかだけですね。


続きはまたこの先で。
https://medium.com/%E5%B1%B1%E3%81%AE%E4%B8%8A%E3%81%8B%E3%82%89

「命の水」を飲みながら

何とか松の内に更新を。


新年は例年通り、すなわち元旦はこのダイアリー*1の語源となった「山の上」の実家に帰り、2日に奥様の実家へ行き、3日に現住所の「山の上」へ戻り、4日に子ども達を連れてプラレール*2へ行く、という過ごし方を致しました。
道中の賑やかしは当然『POP VIRUS』で、家族へのクリスマスプレゼントとして針を落として以来(CDです、はい)、もう何度聴いたことか。ちなみに前作『YELLOW DANCER』はここ3年ほど、欠かさず長男のヘビーローテーションでありました(笑)
ごく簡単に新作を評するなら、星野源らしさを煮詰めた、とても1時間弱とは思えぬ濃厚さで、ハイライトは中盤の『Present』ではないかなぁ、と思っていて、あの闇と光の綯い交ぜになった世界観は、『アイデア』(紅白のテイクは、諸手を挙げて賛辞を送りたい)を超えた今だからこそ、だと思います。


とはいえ、変わらないようで少しずつ変わってきたこともあるものでして、まず初詣をここ3年続けて日吉大社にお詣りしてきて初めて、元日に致しました。
昨年,一昨年と実家の両親と元旦の翌2日に行っていたところ、諸々の負担を鑑みて前倒ししたところ、なんだか例年以上に晴れやかな年を迎えられたように思います。
御神籤も予期していたような内容で、背中を押されたとまでいかない、後ろ盾を得たというような心境でして、泰然自若と亥年にも牛歩の構えで臨みたいと考えた次第。きっと来たるべき時はそう遠くないのです。


2日,3日の過ごし方もここ数年の反省を踏まえて、少し早めにお暇させていただき、自宅に戻ってきました。
ここなら何ら差支えないと思って語弊を恐れずに書くなら、やはり私達家族はどこまで行っても自由でありたいのだと思います。
仕事柄、もっと言えば生来の気質として、ルーツは大切にしたいと思う一方、まずは自立し自由闊達な在り方でなければ、今の時代そしてこれから先の時代に生き抜いて行くのは難しいと、折に触れて感じることばかりです。


昨年最初の天赦日を記し、3月の締め切り間際に、とある届を市役所に出して以来、個人としてそしてその先には何らかの組織として、主体的に生きて行くことがこんなに面白いことに気付いた以上、後には戻れないと感じています。
Memento Mori」でも「Carpe diem」でも「Catch the Moment」でも(元ネタがひと通り分かった方には、細やかな賞品があるかも)、つまりはそれらが云わんとすることが、割と身に沁みて分かってしまった私としては、無難に生きることさえ最早リスクであって、じゃあ何をするか、ってシンプルに自分の足で稼ぐしかないのです。
そうそう、新年の投稿なので昨年考えた社訓をここに忍ばせておきましょう。


創り手良し
食し手良し
伝え手良し


ちなみにタイトルはウイスキーの銘柄で、「USQUAEBACH」と綴ります*3
昨年ご縁があった大阪市内の酒屋さんたっての推奨品として半年ほど前に初めていただいたもので、ブレンデッドとは思えぬ奥深さに唸りました。
挨拶回りでお邪魔した際、年末年始の景気付けに2本目を仕入れ、チビチビいただいております。

*1:サービス終了まであと少しですね。移行先は日本から撤退した某サービスを検討中です。

*2:なんで今年はあんなに混んでいたのでしょうか。そんな中2人は、いただいたお年玉を使って、おかげ様でお目当ての品を獲得しておりました。

*3:背面にある英語の説明書きを読むに、どうもゲール語由来(?)なのかな、詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示くださいませ。

紅白を観ながら

公私ともに山あり谷ありの今年も残り僅か。
これからお世話になった皆様方への御礼と、これからお世話になる方々への挨拶に変えて、今年購入したCDを挙げさせていただきます。

紅白に出るのは、星野源だけかな(笑)


Catch the Moment』LiSA
『Ref:rain / 眩いばかり』Aimer
『Re-clambon』クラムボン
『コレカラー』コレサワ
『Evening of Fourplay』Fourplay
『ALIVE』Do As Infinity
Journey without a mapTAKURO
『All Of Us』Glim Spanky
『自由の岸辺』佐野元春
ECLIPSE』Joey Alexander
『コレでしょ』コレサワ
『(p)review』竹澤汀
『JASMINE』Keith Jarrett/Charlie Haiden
『Neat's ワンダープラネット』新津由衣
『Reason of Black Color』雨のパレード
『ムキシ』レキシ
『POP VIRUS』星野源

『アルケミスト』

今年最後の天赦日は、今年最後の関東出張最終日でもありました。

大いなる魂によって引き起こされる前兆、なんてことをこの歳になって改めて感じられて、恵まれていて有り難いことです。
パウロ・コエーリョによる寓話めいた著作が世界中で読まれてきたのは、人生という海や砂漠を皆が越えられるから、そして越えることをどこかで躊躇うからだろうと思います。
手に入れたものを差し出す覚悟、目の前に現れる出来事ひとつひとつを糧にして邁進する様に、勇気づけられました。

https://www.kadokawa.co.jp/product/199999275001/

RYTHEMという夢の続き

夢ならば醒めないで、とはよく言ったもので。
我々の生きるideaの世界だって夢そのものでしょうけれど、そんな夢の外へ羽ばたいてなお夢を歌うことの難しさは、哲学をかすめた程度の私でもよく分かります。


ハルモニア』というデビュー曲からして、今思えばすごいタイトルですが、RYTHEMって変な綴りの名前をふっと思い出した私はSpotifyで懐かしいその曲を聴き、その後新津由衣という本名で3度目のデビューを飾っていらっしゃることを知りました。


このとても移ろいやすい時代に、同世代からこんな力強い歌が今年出たことに、感動はもちろん勇気をもらい、微力ながら拡散する次第です。
音楽に救われる人がひとりでも多く増えることを祈って。


『ワンダープラネット』新津由衣
https://youtu.be/-0GC11vPvh0

ABOVE AND BEYONDもしくは瓢箪から駒

美味しい物には偉大な力があるなぁ(独り言)。


こだわりが世界を美しくするそうな(世迷言)。


座右に置くAlbumがまたひとつ増えたのです。
Joey Alexander『ECLIPSE
若干15歳、なんて冠は最早不要だろうと思う。
John Coltrane『Moment's Notice』*1の解釈だって、星野源の『アイデア*2に感じるところがある人間なら、youtubeで一目瞭然でしょうし、いや何ってM1の『BALI』*3に描かれるIndonesiaの空気、M6の表題曲*4におけるインプロビゼーション、M9『SPACE』*5を聴いたらJazzの核心に触れたも同然だろうと思うのです(アルファベートが多いのはアルコールに拠るため、ご了承くださいませ)。

今触れているもの

見聞きしているものについて、徒然なるままに。


まずは音楽から参ります。
今、この記事を綴っている机の上には、ディスクユニオンで買ったCDが5枚。
『Ref:rain / 眩いばかり』Aimer
Catch the Moment』LiSA
『All Of Us』GLIM SPANKY
『自由の岸辺』佐野元春 & THE HOBO KING BAND
『Grand Piano Canyon』Bob James
なんて格好良いプレイリストでしょう(笑)。
せっかくなので肩慣らしに久しぶりにレビューなど。


『Ref:rain / 眩いばかり』Aimer
両A面シングルの内、『Ref:rain』をgoosehouseカバーにより知りました。
雨に纏わる楽曲を4曲収録した、雨男にはもってこいの(?)シングルですが、ここでは表題の2曲ではないカップリングについて。
3曲目『After Rain -Scarlet ver.-』、所謂セルフカバーですが、本人へのインタビュー*1を読むに、文字通り再度光を当てるべき楽曲なのは、彼女の経歴に疎い私にもはっきりと感じられました。
私も含め、Aimerのアンニュイな声に魅力を感じる方が多いと思うのですが、このヴァージョンでは確かな力強さが、agehaspringsによる光を感じる音作り(長らく女性ヴォーカルのJ-POPを聴いてきましたが、ここまで自然とやってのけるのは相当難しいと思われます)と相俟って、4曲中一番陽に振ったこの曲が一番感動的という結果を生んでいます。
朝の陽光の中でこれを聴いて、眩しさに涙が出たらそれはとても幸せな一日に違いない。


そしてトリを飾るのがcoccoの名曲『Raining』。私自身思い入れが強い楽曲なので、いつも以上に長くなることを覚悟して読み進めてくだされば幸いです。
オリジナルが発表された当時も耳にはしていましたが、私の意識にはっきり上がったのは2006年の初めくらいだったと記憶しています。
明治屋の京都三條ストアーで開店前の品出しをしていた私は、有線でこの曲に「出逢った」のですね。一応、知っている曲にも関わらず、心を奪われて、気づけば涙が浮かんでいました。大学生なりに公私ともに色々なことを経験していた時期に、とても印象深く心に刻まれた1曲となりました。
約2年後、私はサークルの演奏会において女性ツインヴォーカルとリードギターに参加してもらって同曲を披露しますが、これが自身が参加したセッションの中で最上だったと、今でも自負しています。
少し話が脇に逸れることを恐れずに続けるなら、このサークルでの経験は、実は今私が取り組んでいる事業とはっきりとリンクしていて、つまり自身がプレイヤーとしてではなくプロデューサーとして活躍する方が、面白いということに今更ながら気づいたのですね。
『Raining』を上記メンバーで取り組んだときに、私は演者として決して素晴らしい腕前でなかったですが、集まった4人で奏でた音は、もっと上手い同期のプレイヤーと交代したとしても再現されなかったはずで、単純に一期一会というだけでなく、そこに至る各人の成長や関係性の変化といった過程まで含めて、置き換え不可能な内容を作り上げられたという意味で、これは自信を持って良いのだな、と十数年経ってようやく思えるようになりました。
よく冗談で「ギターを膝においてダベっているサークル」なんて言っていて(それは事実なのですが)、ストイックとは程遠い音楽サークルでしたが、楽曲に対して理想的なメンバーをその都度考えて準備するという、柔軟かつ目利きであることが求められる場だったのではないか、と少し大げさかもしれませんが、あのとき経験したことが確かに今の私を作っています。
さて曲の話に戻りますと、絶望を歌うと右に出る者がいない*2Aimerの声で『Raining』を歌うとどうなるのだろうと、CD音源を入手したと言っても過言ではないのですが、不思議なまでに昇華され美しさだけが結晶したカバーになっていました。
原曲の持つ力は失われていませんが、しかしcoccoの狂気的な印象はここにはもう残っていません。Aimerはあくまでエモーショナルに歌い上げ、音楽的にも原曲に負けず劣らずドラマチックなのにこの違いが生まれるのは、時間の経過によるものではないでしょうか。
オリジナルに織り込まれた死に対する強い感情は、時とともに薄らいだのだ、と。
Aimerほどの歌い手であればcoccoに成り代わって感情を代弁することは容易いはずですが、そういう心身のありようとは別の次元で、つまりcoccoが今セルフカバーしても同じ結果ではなかっただろうか、と思うのです。
このカバーが素晴らしいと思うとともに、オリジナルに封印された怖いほどの感情に触れて初めて、意味のあるカバーだとも感じるので、ぜひ原曲に触れていただきたいと強く願います*3




Catch the Moment』LiSA
例によってgoosehouseのカバーで知った曲、そしてLiSAだったのですが、こういう出会いを引き寄せられるのは昔から変わっていないなぁ、と我ながら呆れるほど関心しています。
題名に全てが凝縮されていて、まさに今に生かされ、今に試されている我々対する賛歌を、音楽の面としてはJ-POPの範囲で最大限サポートしているという印象です*4
せっかくなのでハイライトだと思われる歌詞を引用致します。
「何度でも 追いついたり 追い越したり キミがふいに分かんなくなって 息をしたタイミングが合うだけで 嬉しくなったりして 集めた一秒を 永遠にして行けるかな」
経歴などを追うに、アニソン側からの支持が絶大のようで、そちらに造詣が深い友人(画面の向こうの貴方です・笑)に言わせれば、歌唱力は元より感情を乗せることに長けているとの評でありました。
DVD付属のヴァージョンが手元にあり、MVも楽曲の疾走感に倣い良作だと思いますが、如何せんジャケットとCD版面のデザインに難ありかと…上述したAimerのジャケットは対照的ですね。




『All Of Us』GLIM SPANKY
大阪に生活拠点を置いているとFM802を聴く機会が多く、そこで出会った楽曲です。
DJの野村雅夫が夕方の「Ciao Amici!」に担当番組をスイッチして間もない頃だったように記憶しているのですが、GLIM SPANKYの2人がこの曲のリリース時にゲスト出演しており、「番組のテーマ曲に相応しい」といった意味の言葉を野村雅夫が残したのは至言だと思います。
「今日が終わる頃 僕らは笑っていますように どうか 戦いながら生きる明日が晴れますように」なんて、ここに抜き出しただけで素晴らしいですよね。
夕暮れ迫る頃、車を停めて耳を傾けた時間は忘れ難いです。
また、これはCDではなく配信版限定ですが、4曲目にthe brilliant green『There will be love there 〜愛のある場所〜』がカバーされており、力強いヴォーカルとソリッドなギター、そして壮大なストリングスによる再解釈は掛け値なしに格好良いです。ちなみに、私は原曲の方がもちろん好きです(笑)




『自由の岸辺』佐野元春 & THE HOBO KING BAND
佐野元春の曲を自ら手に取ったのはこれが初めてです。
私の通ってきた音楽遍歴からは遠い気がしていたところ、ロックを初めとして音のサラダボウルのような印象をアルバム全体から受け、とても面白く夜の高速などで気に入って流しています。
セルフカバー中心のアルバムゆえ、本来であれば発表時と現代における変化などを楽しむのだろうと思いますが、私としてはひとつだけ浮いて聴こえる曲についてどうしても言及したいと思います。
それは『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』。同名のアルバムからのシングルカットで、時代が平成に変わる頃の楽曲です。多くのヴァージョンが存在するライブでの定番曲だそうですが、私にはこの曲だけアルバムの中でとても華やかに聴こえたのです。
音作りに負うところもありながら、それだけではないもっと根本的な違いがあるのではと、歌詞カードのクレジットを確認したところ、これだけ収録が2001年で、他の楽曲は直近2,3年間の収録でした。
2011年3月11日を境に日本の価値観は一変したというのは良く言われることですが、このアルバムにおいて『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』の音が特別輝いていることは上記収録時期からし当然の帰結だろうと考えています。
キャリアが長いアーティストがセルフカバーする際、時代の変遷が意識されるのは当然のことで、それに加えてカバーした時代によっても、その表現は影響を受けるものでしょう。そこに価値観を揺るがすような出来事があれば尚のこと、もはや同じ表現は生まれようもありません。
とても煌びやかな音のシャワーを浴びて、そんなことを考えました。




『Grand Piano Canyon』Bob James
私が15年来、聴き続けているFourplayが生まれる端緒となったBob Jamesのソロ名義アルバムです。このセッション時点ですでに、Lee Ritenour以外が揃っていて、Fourplay誕生前夜の高揚感が、聴いていても伝わってきます。
特に冒頭の『Bare Bones』から『Restoration』にかけての流れは最高で、ここを聴いたら満足してしまうくらいです。




本や映画のことも書こうと思っていましたが、つい音楽に力が入り過ぎましたので、また次回(笑)

*1:「こんな子もいたんです!」って表現が良いですね(笑)
https://natalie.mu/music/pp/aimer14

*2:LiSAのこのインタビューでAimerの声に言及していることは特筆に値すると思います。
https://natalie.mu/music/pp/lisa15/page/3

*3:https://open.spotify.com/track/7LhDbDN3axNzy49taBmiF2?si=hx8Kom3NSg2650YqvofeUw

*4:クレジットによるとAimerと同じagehaspringsによるプロデュースなのですね、素晴らしいチームだなぁ。